
山女日記
(★4.1)
(Kindle¥669 / 楽天¥781 / オーディブル聴き放題)
湊かなえさんの小説『山女日記』の書評です。
山ガール。登山をテーマにした全8編から成る連作長編集。
目次|Contents
『山女日記』について
『山女日記』は、2012年から「GINGER L.」に連載され、2014年に幻冬舎より刊行された湊かなえさんの連作小説。
2016年『山女日記〜女たちは頂を目指して〜』と題して「NHK BSプレミアム」でテレビドラマ化され、続編も制作されています。
『山女日記』登場人物
律子:妙高山の章の主人公 結婚について悩み、初登山に挑む
由美:律子の同僚 部長と不倫中
舞子:律子の同僚 妙高山登山をドタキャンする
『山女日記』あらすじ

こんなはずでなかった結婚。
捨て去れない華やいだ過去。
拭いきれない姉への劣等感。
夫から切り出された別離。いつの間にか心が離れた恋人。……真面目に、正直に、懸命に生きてきた。なのに、なぜ? 誰にも言えない思いを抱え、山を登る彼女たちは、やがて自分なりの小さな光を見いだしていく。
新しい景色が背中を押してくれる、感動の連作長篇。
Amazonより引用
湊かなえさんの『山女日記』は、登山をテーマにした連作集です。
全8編から成る物語には、それぞれ異なる女性たちが主人公として登場します。
彼女たちは仕事や恋愛、家族関係に悩み、人生の岐路に立ちながら山へと向かいます。登る山は槍ヶ岳や白馬岳など、実在する名峰ばかり。物語の舞台としての「山」は、ただの背景ではなく、登場人物たちが自分自身と向き合うための「試練の場」として登場します。
物語の中で描かれるのは、登山の困難さや達成感だけでなく、山にまつわる人間関係や心理描写です。
例えば、会社を辞める決意をした女性が山頂で見つけた新たな希望、恋愛の決着をつけるために山に登る女性の葛藤、家族との確執を乗り越えようとする母親の姿など、それぞれのキャラクターが抱える問題が、登山という行為を通じて浮かび上がります。
連作集としての構成も秀逸で、一見バラバラな物語のように思えますが、実は各話がどこかで繋がっており、読み進めるごとに全体像が見えてくる仕掛けになっています。
『山女日記』レビュー・感想

妙高山
新潟県--30歳の律子が主人公 結婚に悩む彼女は、同僚の舞子と由美と登山を計画する
火打山
新潟県--40代の美津子が主人公 とある男性と山に登り、理解を深めていきます
槍ヶ岳
長野県--しのぶが主人公 登山初心者の主婦と経験者の本郷さんと登山をすることに
利尻山
北海道--希美が主人公 東京から田舎に戻った希美は、姉に誘われて利尻山に登ります
白馬岳
長野県--希美の姉、美幸が主人公 娘の七花と希美と3人で白馬山に挑戦します
金時山
神奈川県--舞子が主人公 職場の同僚との関係に悩み、恋人の大輔と金時山に登ります
トンガリロ山
ニュージーランド--柚月が主人公 恋人との別れを引きずりながら、再びトンガリロのツアーに参加します
カラフェスに行こう
希美が主人公 登山仲間を求めて「山フェス」に参加し、クマゴロウという女性と出会う
湊かなえさんの『山女日記』の魅力は、大きく分けて三つあります。
① 心理描写の巧みさ
湊かなえさんといえば、心理サスペンスやミステリーの名手として知られていますが、本作でもその筆致は健在です。登場人物の心情が細やかに描かれており、読者はまるで彼女たちと一緒に山を登っているかのような感覚になります。特に、登山という極限状態の中でむき出しになる感情や、普段は見えにくい本音の描写が秀逸です。
② 山の魅力がリアルに伝わる
本作では、登場する山々の自然描写が非常に美しく、臨場感があります。登山経験がある人なら「わかる!」と思うような場面が多く、逆に登山経験のない人にとっては、「こんな風に山を感じるんだ」と新しい発見があるでしょう。登山の厳しさや達成感、そして山に魅了される人々の気持ちがリアルに伝わってきます。
③ 章ごとに独立していながらも連続性のある物語
それぞれの話が独立した物語でありながら、共通の登場人物がさりげなく現れたり、後の話で意外な形で繋がったりするのも、本作の面白い点です。一度読んだだけでは気づかない伏線があり、読み返すことで新たな発見があるのも魅力の一つです。
著者「湊かなえ」さんについて
『山女日記』の著者、湊かなえ(みなとかなえ)さんは、1973年広島県生まれの小説家です。
2007年に『聖職者』で第29回小説推理新人賞を受賞し小説家デビュー
2009年に『告白』が 本屋大賞を受賞、累計300万部を超えるベストセラー
湊かなえさんの作品は、心理的な深みと社会的な洞察力を兼ね備えたミステリーとして、多くの読者から支持されています。
『山女日記』を読んだ最後に
『山女日記』を読んだ後、まるで自分も山を登ったかのような達成感と清々しさが残りました。
登場人物たちはそれぞれ悩みや迷いを抱えていましたが、山を登ることで少しずつ自分自身と向き合い、前へ進む力を得ていきます。その姿は、読者にとっても「自分はどう生きるべきか?」を考えるきっかけを与えてくれます。
また、本作は登山経験者はもちろん、普段登山をしない人にとっても十分に楽しめる作品です。山の魅力と人生の機微が絶妙に織り交ぜられており、読後には「私もどこかの山に登ってみたい」と思わせるような余韻が残ります。
湊かなえさんの作品といえば、ミステリー要素が強いものが多いですが、『山女日記』はそれとは一線を画した、静かで深みのある作品です。
人間ドラマとしての完成度が高く、登山を通じて変わっていく女性たちの姿に共感しながら、じっくりと味わうことができました。

山女日記
(★4.1)
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