
人魚が逃げた
(★4.3)
(Kindle¥1,350 / 楽天¥1,760 / オーディブル聴き放題)
青山美智子さんの小説『人魚が逃げた』の書評です。
銀座の歩行者天国で、「王子」と名乗る青年が「僕の人魚が逃げた」と語る。この「人魚騒動」の裏では、5人の男女がそれぞれ人生の節目を迎えていた。
『人魚が逃げた』について
『人魚が逃げた』は、2024年にPHP研究所より発表された青山美智子さんの連作短編ファンタジー小説。
本屋さんが選ぶ「2025年本屋大賞」ノミネート作品
『人魚が逃げた』登場人物
王子:銀座の街を歩き回り、「人魚が逃げた」と語る謎の青年
友治:12歳年上の恋人と交際中の元タレントの会社員
理世:友治の12歳年上の恋人 高級クラブでママとして働くホステス
『人魚が逃げた』あらすじ

ある3月の週末、SNS上で「人魚が逃げた」という言葉がトレンド入りした。
どうやら「王子」と名乗る謎の青年が銀座の街をさまよい歩き、「僕の人魚が、いなくなってしまって……逃げたんだ。この場所に」と語っているらしい。彼の不可解な言動に、人々はだんだん興味を持ち始め――。
その「人魚騒動」の裏では、5人の男女が「人生の節目」を迎えていた。12歳年上の女性と交際中の元タレントの会社員、娘と買い物中の主婦、絵の蒐集にのめり込みすぎるあまり妻に離婚されたコレクター、文学賞の選考結果を待つ作家、高級クラブでママとして働くホステス。
銀座を訪れた5人を待ち受ける意外な運命とは。
Amazonより引用
そして「王子」は人魚と再会できるのか。
そもそも人魚はいるのか、いないのか……。
青山美智子さんの『人魚が逃げた』は、銀座を舞台に現実とファンタジーが交錯する連作短編集です。
物語は、SNSで拡散された「人魚が逃げた」という謎の言葉をきっかけに展開されます。
銀座の歩行者天国で、「王子」と名乗る青年が「僕の人魚が逃げた」と語り、その言葉がSNSで話題となります。この「人魚騒動」の裏では、5人の男女がそれぞれ人生の節目を迎えています。
それぞれが銀座で「王子」と遭遇し、彼の言葉や行動を通じて、自分自身や人生と向き合います。
物語は、人間関係や自己葛藤、成長を描きながら、登場人物たちが少しずつ変化していく過程を丁寧に描いています。
「人魚」とは何か、その象徴的な存在が読者に深いメッセージを投げかける作品です。
『人魚が逃げた』レビュー・感想

『人魚が逃げた』の魅力は、大きく分けて三つあります。
① さりげない「つながり」が心に響く
個々の短編が独立していながら、物語が進むにつれて登場人物たちの関係が少しずつ浮かび上がってくる仕掛けになっています。
「この人とこの人がつながっていたのか!」と気づいたときの驚きと温かさは、本作ならではの醍醐味です。
誰かが残した言葉や行動が、別の誰かに影響を与えていく流れがとても心地よく、読んでいるうちに自分も見えない何かとつながっているのでは、と思わせてくれます。
② やさしくて、背中を押してくれる物語
青山美智子さんの作品は、どれも優しさに満ちていますが、『人魚が逃げた』も例外ではありません。
登場人物たちは皆、悩みや葛藤を抱えていますが、それを乗り越える過程がリアルに描かれています。
派手な展開はなくても、ふとした一言や出来事が心に沁みて、「私も頑張ろう」と前向きな気持ちにさせてくれます。
③ タイトルの意味を考えさせられる
「人魚が逃げた」というタイトルには、多くの意味が込められています。
単なる「願いが叶わなかった」という話ではなく、「願いを叶えることが本当に幸せなのか?」と問いかけるような奥深さがあります。
願いの正体に気づくこと、そしてそれを自分の力で掴み取ることの大切さが、本作を通じて静かに伝わってきました。
著者「青山美智子」さんについて
『人魚が逃げた』の著者、青山美智子(あおやまみちこ)さんは、1970年愛知県出身の小説家です。
2017年『木曜日にはココアを』(宝島社)で小説家デビュー
2021年『お探し物は図書室まで』(ポプラ社)が「本屋大賞」2位を受賞
2022年『赤と青とエスキース』(PHP研究所)が「本屋大賞」2位を受賞
2023年『月の立つ林で』(ポプラ社)が「本屋大賞」5位を受賞
2024年『リカバリー・カバヒコ』(光文社)が「本屋大賞」7位を受賞
青山美智子さんの作品は、忙しい日常の中でも心が癒される、優しさに満ちた物語です。
『人魚が逃げた』を読んだ最後に
『人魚が逃げた』を読み終えると、じんわりと温かい気持ちが残ります。
そして、物語のどこかに自分自身を重ねていたことに気づくはずです。
誰かのひと言が人生を変えることがあるように、本作の言葉もまた、読者の心にそっと寄り添い、新しい一歩を踏み出す勇気をくれる作品でした。
青山美智子さんの作品には、いつも「日常の中の小さな奇跡」が描かれていますが、本作もその魅力が存分に詰まっています。
何かに迷っているとき、自分の願いがわからなくなったとき、そっと開いてみたくなる一冊です。

人魚が逃げた
(★4.3)
(Kindle¥1,350 / 楽天¥1,760 / オーディブル聴き放題)