『天使の囀り』 貴志祐介さん著|あらすじ・レビュー

『天使の囀り』 貴志祐介さん著|あらすじ・レビュー

2025年3月27日

天使の囀り

(★4.3)
(Kindle¥772 / 楽天¥880 / オーディブル聴き放題)


貴志祐介さんの小説『天使の囀り』の書評です。

彼が死の直前に残した「天使の囀りが聞こえる」という言葉は、何を意味するのか?
今まで出会ったことのない異色の心理ホラー小説

『天使の囀り』について

『天使の囀り』は、1998年に角川書店より発表された貴志祐介さんのホラー小説。

1999年「このミステリーがすごい」5位

『天使の囀り』登場人物

北島早苗:主人公 ホスピスで終末期医療を行う美人医師 恋人・高梨の死の真相を追う

高梨光弘:早苗の恋人 アマゾン探検から帰国後に精神が変容し、自殺に至る

依田健二:寄生虫研究の権威 早苗と共に寄生虫の謎を解明しようとする

蜷川教授:高梨と共にアマゾン探検を行った大学教授

『天使の囀り』あらすじ

北島早苗は、終末期医療に携わる精神科医。

恋人の高梨は、病的な死恐怖症(タナトフォビア)だったが、新聞社主催のアマゾン調査隊に参加してからは、人格が異様な変容を見せ、あれほど怖れていた『死』に魅せられたように自殺してしまう。

さらに、調査隊の他のメンバーも、次々と異常な方法で自殺を遂げていることがわかる。アマゾンでいったい何が起きたのか?

高梨が死の直前に残した「天使の囀りが聞こえる」という言葉は、何を意味するのか?

前人未踏の恐怖が、あなたを襲う。

Amazonより引用

貴志祐介さんの『天使の囀り』は、ホラーとサスペンスが融合した貴志祐介さんの代表的な作品の一つ。

物語は、精神科医・早苗が、アマゾンから帰国した恋人の異変に気づくことから始まります。

帰国後の彼はまるで別人のようになり、突然自ら命を絶ってしまいます。

彼が残した「天使の囀りが聞こえる」という言葉に違和感を抱いた早苗は、真相を追ううちに、同じツアーに参加した他のメンバーにも奇妙な変化が起こっていることを知ります。

彼らは一様に、強迫観念や不安から解放され、幸福感に満ちていくものの、やがて不可解な行動をとり始め、最終的には恐ろしい結末を迎えます。

彼らに共通する「恐怖を快楽に変える」謎の現象の正体を突き止めようとするのですが――。

本作は、「恐怖」と「快楽」という相反する要素が交錯する異色のホラー小説で、人間の根源的な感情に関わるテーマが扱われており、読み進めるうちに読者自身も心理的な異変を感じるほどの没入感があります。

『天使の囀り』レビュー・感想


貴志祐介さんの『天使の囀り』を読んで

① 圧倒的な恐怖と緻密な心理描写

『天使の囀り』の最大の魅力は、読者の心にじわじわと忍び寄る恐怖です。

単なる怪異や超常現象ではなく、科学的な説明がつきそうなリアリティのある恐怖が描かれているため、「もしかして現実にも起こるのでは?」と思わせる説得力があります。

登場人物たちが徐々に変貌していく過程の描写が非常に丁寧で、読んでいるうちに自分まで影響を受けてしまうような錯覚に陥るほどです。

② ホラーとサスペンスの絶妙なバランス

単なるホラー小説ではなく、サスペンス要素も強く含まれています。

主人公が事件の真相を探る過程は、まるでミステリーのようにスリリングで、先が気になって一気に読み進めてしまいます。

また、南米アマゾンの風景描写や、寄生虫・生物学に関する知識がふんだんに盛り込まれており、物語にリアリティを与えています。

③ 人間の根源的な欲望を突きつけるテーマ

『天使の囀り』は、単なるホラーを超えた「人間の本質」を描いた作品でもあります。

恐怖を快楽に変えるという現象を通じて、「私たちが本当に恐れているものは何か?」「幸福とは何か?」といった哲学的な問いを投げかけてきます。

読後にはただの恐怖ではなく、深い余韻と考察の余地が残るのも、本作の大きな魅力です。

著者「貴志祐介」さんについて

『天使の囀り』の著者、貴志祐介(きしゆうすけ)さんは、1959年大阪府生まれの小説家です。

1996年『十三番目の人格 ISOLA』で「第3回日本ホラー小説大賞」佳作を受賞し、作家デビュー
1997年『黒い家』で「第4回日本ホラー小説大賞」を受賞

貴志祐介さんの作品は、心理的な深みと社会的な洞察力を兼ね備えたミステリーとして、多くの読者から支持されています。

『天使の囀り』を読んだ最後に

『天使の囀り』を読み終えたとき、ただ「怖かった」で終わらないのが『天使の囀り』のすごさです。

本作の恐怖は単なる怪奇現象ではなく、人間の本能や心理に根ざしているため、読後もしばらく頭から離れません。

特にラストに至る展開は衝撃的で、「これ以上怖いものはない」と思わせるほど強烈です。

貴志祐介さんの作品の中でも、本作は心理ホラーとしての完成度が非常に高く、単なるホラー好きだけでなく、ミステリーやサスペンス好きにも強くおすすめできる一冊です。

読む人によっては、しばらく「あること」が怖くてたまらなくなるかもしれません。それほどまでに、読者の心に深く爪痕を残す恐怖小説です。

天使の囀り

(★4.3)
(Kindle¥772 / 楽天¥880 / オーディブル聴き放題)