
神様のカルテ
(★4.3)
(Kindle¥682 / 楽天¥682 / オーディブル聴き放題)
夏川草介さんの小説『神様のカルテ』の書評です。
忙しない日々の中で、大切なことを思い出させてくれる——静かで温かい、命と心のカルテ。
『神様のカルテ』について
『神様のカルテ』は、2009年に小学館より発表された夏川草介さんの小説
「第十回小学館文庫小説賞」受賞、「2010年本屋大賞」第2位。2011年には映画も公開された
『神様のカルテ』登場人物
栗原 一止(いちと):主人公 信州松本にある本庄病院に勤務する29歳の内科医
栗原 榛名(はるな):一止の妻 山岳写真家
砂山 次郎:一止の親友 同僚の外科医
外村 勝子:救急部看護師長 30代で独身
東西 直美:病棟主任看護師
水無 陽子:本庄病院の新人看護師
大狸先生(おおだぬき):本庄病院の内科部長
古狐先生(こぎつね):本庄病院の内科副部長 本名は内藤鴨一
『神様のカルテ』あらすじ

神の手を持つ医者はいなくても、この病院では奇蹟が起きる。
栗原一止(いちと)は信州にある「24時間、365日対応」の病院で働く、29歳の内科医。
ここでは常に医師が不足している。
専門ではない分野の診療をするのも日常茶飯事なら、睡眠を3日取れないことも日常茶飯事だ。妻・ハルに献身的に支えられ、経験豊富な看護師と、変わり者だが優秀な外科医の友人と助け合いながら、日々の診療をなんとかこなしている。
そんな一止に、母校の医局から誘いの声がかかる。大学に戻れば、休みも増え愛する妻と過ごす時間が増える。最先端の医療を学ぶこともできる。
だが、大学病院や大病院に「手遅れ」と見放された患者たちと、精一杯向き合う医者がいてもいいのではないか。悩む一止の背中を押してくれたのは、死を目前に控えた高齢の癌患者・安曇さんからの思いがけない贈り物だった…。
Amazonより引用
舞台は信州松本の地方病院。
夏目漱石を敬愛し、古風な言葉遣いをする若き内科医、栗原一止(くりはら いちと)が働くのは、「24時間365日対応」を掲げる本庄病院。
古風な話し方と真面目な性格で、同僚からも一風変わった存在として見られています。彼の人生は、大学病院という選択肢と、今の病院での理想との狭間で揺れ動いています。
そんな彼を支えるのは、同居人であり妻のハル。書物と自然を愛する静かな女性で、彼女の存在が一止の心のよりどころになっています。
患者一人ひとりと真摯に向き合う一止の姿と、その中で生まれる人間模様が静かに、でも力強く描かれていく。
地域医療の厳しい現実と、そこにある温かな希望を描いた物語——それが『神様のカルテ』の世界です。
『神様のカルテ』レビュー・感想

『神様のカルテ』を読んで、まず胸を打たれたのは、主人公・一止先生の誠実さと、彼を取り巻く人々の温かさです。
医療現場の過酷さは想像を絶するものがありますが、そんな中でも患者さん一人ひとりに真摯に向き合う一止先生の姿には、頭が下がる思いでした。
特に印象的だったのは、彼が使う古風な言葉遣いです。最初は少し戸惑うかもしれませんが、読み進めるうちに、その言葉の端々から彼の優しさや葛藤が伝わってきて、物語にぐっと引き込まれました。
この作品はただ感動するだけでなく、現代日本の地域医療が抱える問題点についても考えさせられます。
医師不足、長時間労働、それでも救いたい命があるという現実。
決して他人事ではないテーマに、改めて医療従事者の方々への感謝の念が湧いてきました。
そして何よりも、登場人物たちが本当に魅力的です。
ユーモラスな同僚の砂山次郎先生や、冷静沈着な古狐先生、そしていつも一止先生を温かく見守る妻のハルさん。
彼らとの会話やエピソードの一つひとつが、物語に彩りと深みを与えています。
読んでいると、まるで自分も信州の美しい自然の中で、彼らと一緒に過ごしているような気持ちになれました。
著者「夏川草介」さんについて
『神様のカルテ』の著者、夏川草介(なつかわそうすけ)さんは、1978年大阪府生まれの小説家です。
信州大学医学部卒業後、⻑野県にて地域医療に従事
2009年『神様のカルテ』で「第10回小学館文庫小説賞」を受賞しデビュー
同書は2010年「本屋大賞」第2位となり、映画化される
他の著書に、世界数10カ国で翻訳された『本を守ろうとする猫の話』、『始まりの木』、コロナ禍の最前線に立つ現役医師である著者が自らの経験をもとに綴り大きな話題となったドキュメント小説『臨床の砦』など
『神様のカルテ』を読んだ最後に
『神様のカルテ』を読み終えた後、心の中に温かいものがじんわりと広がっていくのを感じました。
それは、命の尊さ、人と人との繋がりの大切さ、そして困難な状況でも前を向いて進むことの勇気です。
この物語は、医療関係者の方はもちろんですが、日々の忙しさに追われて大切なものを見失いそうになっている方や、心が少し疲れてしまっている方にこそ、手に取ってほしい一冊だと感じました。
きっと、栗原一止先生の言葉や生き方が、明日への小さな希望を灯してくれるはずです。
美しい信州の情景と共に、心に残る感動と、医療という仕事への深い敬意を抱かせてくれる作品でした。
続編もあるので、ぜひ続けて読んでみたいと思います。

神様のカルテ
(★4.3)
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