『国宝』 吉田修一さん著|あらすじ・レビュー

『国宝』 吉田修一さん著|あらすじ・レビュー

国宝(上 青春篇)

(★4.5)


吉田修一さんの『国宝』は、任侠の世界から歌舞伎という芸の道へ足を踏み入れた一人の男の激動の人生を描いた、上下二巻の長編小説です。

吉田修一さんの作家20周年記念作品でもあり、日本の伝統芸能である歌舞伎を題材にしながら、人間ドラマとしての深さと感動を届ける傑作となっています。

本記事では、この作品の魅力を詳しくお探りしていきたいと思います。

国宝』について

『国宝』は、2018年9月7日に朝日新聞出版から単行本として発売された吉田修一さんの長編小説です。

上巻は「青春篇」、下巻は「花道篇」というサブタイトルが付けられており、主人公の人生の異なる段階を象徴しています。

もともとは朝日新聞に連載されていた作品で、その後単行本化されました。

この作品は吉田修一さんの作家活動20周年を記念した重要な作品であり、同時に朝日新聞出版の10周年記念という二つの節目が重なって世に出た、特別な位置づけの作品となっています。

歌舞伎という日本の伝統芸能を主題としながらも、暴力団の世界から身を置く設定が物語の出発点となるという、大変ユニークな構成を持っています。

歌舞伎についての深い知識がなくても、人間ドラマとして強く心を打つ物語として読むことができます。

『国宝』登場人物

立花喜久雄:主人公 長崎の立花組長・権五郎の息子

大垣俊介:半二郎の息子 喜久雄の親友でありライバル

花井半二郎:歌舞伎界の重鎮 

小野川万菊:女形の第一人者 人間国宝

竹野:興行会社・三友の社員

辻村:立花組長の弟分

『国宝』あらすじ

俺たちは踊れる。だからもっと美しい世界に立たせてくれ!

極道と梨園。
生い立ちも才能も違う若き二人の役者が、
芸の道に青春を捧げていく。

作家生活20周年記念作品として放つ渾身の大作。

(あらすじ)
1964年1月1日 長崎は料亭「花丸」
侠客たちの怒号と悲鳴が飛び交うなかで、
この国の宝となる役者は生まれた。
男の名は、立花喜久雄

極道の一門に生まれながらも、この世ならざる美貌は人々を巻き込み、
喜久雄の人生を思わぬ域にまで連れ出していく。

舞台は長崎から大阪、そして、オリンピック後の東京へ。
日本の成長と歩を合わせるように、技をみがき、道を究めようともがく男たち。

血族との深い絆と軋み、スキャンダルと栄光、幾重もの信頼と裏切り。
舞台、映画、テレビと芸能界の転換期を駆け抜け、数多の歓喜と絶望を享受しながら、
その頂点に登りつめた先に、何が見えるのか?

Amazonより引用

1964年元日、長崎は料亭「花丸」。ここは侠客たちが集う場所でした。暴力団・立花組の組長の独り息子として誕生した主人公。彼の父は組織内の抗争で殺害されてしまいます。

この悲劇的な出来事を機に、主人公の運命は大きく変わります。彼は歌舞伎役者の養子に出されることになるのです。梨園という、それまでの彼の知らない全く異なる世界へ。

上巻「青春篇」では、主人公がヤクザの息子から歌舞伎役者へと転身し、修行を重ねていく過程が描かれます。師匠からの厳しい指導、同門の役者たちとの関係、そして歌舞伎という伝統芸能の奥深さへの目覚めが、丹念に語られていきます。

下巻「花道篇」では、主人公がやがて一流の役者へと成長し、歌舞伎界の頂点を目指していく経過が描かれます。芸道への純粋な追求、人間関係の複雑さ、そして彼が「国宝」と呼ばれるまでに至るまでの道のりが、感動的に綴られています。

『国宝』レビュー・感想


『国宝』を読んでみて、その深い人間ドラマと、歌舞伎という題材の扱い方が見事でした。

歌舞伎についての予備知識がなくても、物語に強く引き込まれていきます。上下二巻という長さがあるにもかかわらず、一気読みしてしまいました。

特に注目されるのは、吉田修一さんが伝統芸能をどのように現代的な視点で描くのか、という点。従来の歌舞伎小説とは異なり、任侠の世界という非常に現代的で生々しい設定から物語をスタートさせることで、新鮮さを感じました。

また、主人公の人間的な成長と、「芸」に精進する生き方の美しさが丹念に描かれている点も、心を強く打つ要因となりました。歌舞伎の女形として生きることの厳しさ、そしてその先に見出される人生の意味が、リアルに活写されています。

「泣ける」場面も多々あり、ただ単なる娯楽小説ではなく、人生について深く考えさせられる作品です。

著者「吉田修一」さんについて

吉田修一さんは、日本の現代文学を代表する作家の一人。

その作品は、社会的なテーマを深く掘り下げ、人間ドラマの本質に迫るもので知られています。

代表作は『悪人』『怒り』『最高の人生の終り方』などが挙げられます。

これらの作品は映画化もされており、その物語性と文学性の高さは映画界からも高く評価されています。

『国宝』は、吉田修一さんの作家活動20周年を記念した作品として、彼の創作人生における重要なマイルストーンとなっています。この作品においても、彼の得意とする人間関係の深い洞察と、社会的な背景の描き込みが如何なく発揮されています。

『国宝』を読んだ最後に

『国宝』は、単なる娯楽小説ではなく、人生と芸術、伝統と革新、そして人間の本質について深く考えさせてくれる作品です。

この作品を読むことで、歌舞伎という伝統芸能の奥深さに触れるとともに、一人の人間がいかに困難な状況から立ち上がり、自らの人生を切り開いていくのかという普遍的なテーマについて考えることになります。

主人公が「国宝」と呼ばれるまでに至る道のりは、決して平坦なものではありません。

彼の内に秘められた二つの世界、任侠の血と芸術への憧憬が織り成す葛藤と希望が、この物語に深い味わいをもたらしています。

吉田修一さんの筆致は、ページをめくる手を止められなくさせる力強さを持ちながらも、細かな人間ドラマへの細やかな配慮が感じられます。

『国宝』は、日本の現代文学を代表する作品の一つとして、多くの読者に愛され続けるであろう傑作です。

未読の方は、ぜひ一度手に取ってみることをお勧めします。

その先に広がる、歌舞伎の世界と人間ドラマの深さに、きっと心を打たれることでしょう。

国宝(下 花道篇)

(★4.5)