『落日』 湊かなえさん著|あらすじ・レビュー

『落日』 湊かなえさん著|あらすじ・レビュー

落日

(★4.2)
(Kindle¥772 / 楽天¥858 / オーディブル聴き放題)


湊かなえさんの小説『落日』の書評です。

15年前の事件が、止まった時間を動かしはじめる。「赦し」とは何か――その問いに、私たちはどう答えるだろう。

『落日』について

『落日』は、2019年に角川春樹事務所より発表された湊かなえさんの小説。

「第162回直木三十五賞」候補、2023年にはドラマ化もされた。

『落日』登場人物

長谷部香:映画監督 幼少期に「笹塚町一家殺害事件」の隣人だった過去を持つ

甲斐真尋:新人脚本家 天才ピアニストの姉・千穂の死を引きずっている

甲斐千穂:真尋の姉 天才ピアニストとして期待されるも交通事故死した

立石沙良:高校生の時に兄・力輝斗に刺殺された少女

立石力輝斗:沙良の異父兄 家族を殺害した加害者

『落日』あらすじ

わたしがまだ時折、自殺願望に取り付かれていた頃、サラちゃんは殺された

──新人脚本家の甲斐千尋は、新進気鋭の映画監督長谷部香から、新作の相談を受けた。
十五年前、引きこもりの男性が高校生の妹を自宅で刺殺後、放火して両親も死に至らしめた『笹塚町一家殺害事件』。
笹塚町は千尋の生まれ故郷でもあった。香はこの事件を何故撮りたいのか。千尋はどう向き合うのか。

そこには隠された驚愕の「真実」があった……令和最高の衝撃&感動の長篇ミステリー。

Amazonより引用

湊かなえさんの『落日』は、新人脚本家・甲斐真尋は、国際的に評価される映画監督・長谷部香から、15年前の「笹塚町一家殺害事件」を題材にした映画制作の依頼を受ける。

過去にそれぞれ心の傷を抱える二人が、事件の真相を追いながら、加害者・被害者・遺族・関係者それぞれの記憶に迫っていく。

語られるのは、ひとつの「事件」だけではない。生きづらさを抱える人々の“生”と“罪”、そして“赦し”。事件の全容が暴かれる過程で、二人は「真実を知ることの代償」と向き合うこととなる。

湊かなえさんらしい繊細な筆致で、過去と現在が交錯する重厚なヒューマンドラマが紡がれていきます。

『落日』レビュー・感想


湊かなえさんの作品の中でも、『落日』はどこか静かで、でも確かに重い――そんな印象を受けました。

まず印象的だったのは、「事件の真相」だけで終わらないところ。むしろ事件は入り口であって、そこから人々の人生にどう影響したのか、どう立ち直っていこうとするのかに焦点が当てられているんですよね。

登場人物たちはみな、なにかを「抱えている」人たちばかり。脚本家の甲斐も、監督の長谷部も、それぞれに深いトラウマや葛藤を持っていて、その心の動きがとてもリアルに描かれています。とくに、”過去と向き合うことは、自分と向き合うこと”だというテーマが、物語全体を貫いていて、読み終えた後に静かに胸に残るんです。

そして、読者に突きつけられるのは「真実とは何か」という問い。ただの事実だけが真実じゃない、人の数だけ“真実”があるのだと、考えさせられました。

著者「湊かなえ」さんについて

『落日』の著者、湊かなえ(みなとかなえ)さんは、1973年広島県生まれの小説家です。

2007年『聖職者』で第29回小説推理新人賞を受賞し小説家デビュー
2009年『告白』が 本屋大賞を受賞、累計300万部を超えるベストセラー

湊かなえさんの作品は、心理的な深みと社会的な洞察力を兼ね備えたミステリーとして、多くの読者から支持されています。

『落日』を読んだ最後に

『落日』というタイトルに込められた意味。

それは“終わり”だけではなく、“新たな始まり”でもあるように感じました。

落ちていく太陽のその先に、確かにまた光がある――そんな気がして。この本は、過去に傷ついたことのあるすべての人に読んでほしい一冊です。

湊かなえさんの作品の中でも、ひときわ“深さ”を感じた『落日』。

物語を読み終えたあと、心の中でずっと夕日が燃えているような、そんな余韻が残る小説でした。

落日

(★4.2)
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